1文字が省略される

腹式単純子宮全摘術は英語でtotal abdominal hysterectomyまたはabdominal total hysterectomyなので,略語はTAHまたはATHである。ところがこの手術はATと略されることがある。“AT”はグーグル検索ではストップ文字なので,通常検索では検索対象とならない。ストップ文字も検索対象に加えると,当然前置詞の“at”も含まれる。どちらにしてもAT=腹式子宮全摘術にたどり着くのは難しい。しかし,なぜ一番大事そうなhysterectomyの“H”を省略するのか。子宮を切除する手術は腹式単純子宮全摘術の他,広汎子宮全摘術,準広汎子宮全摘術,腟式子宮全摘術など様々な方法がある。私の勝手な推測を述べるなら,「子宮を摘出するのはわかっているけど,どういう術式?」と聞かれれば,開腹アプローチ(abdominal)で全摘(total)という意味で“AT”とだけ答えれば事足りたからではないだろうか。

同じく1文字が省略されるものに筋肉の名称がある。
TAはtibialis anterior muscleの略で前脛骨筋,GCはgastrocnemius muscleの略で腓腹筋である。いずれもmuscleのMは略語に含まれていない。
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# by charttranslator | 2005-03-21 22:33 | カルテ解読のヒント | Comments(0)

ウムラウトと漢字

整形外科のカルテでは頚椎のことをHWSと表記することがある。HWSはドイツ語のHalswirbelsaeuleの略である。本来Halswirbelだけで「頚椎」で,saeuleは「柱」なので「頚椎柱」になってしまうが,あまりこの呼び方はしない。ここでsaeuleのaeはaウムラウト,つまりaの上に2つの点がついた文字である。同様にoウムラウトはoe,uウムラウトはue,エスツェットはssと表記するのがデジタル文書の約束事らしい。一文字や二文字の略語に比べ,三文字となるとネット検索で比較的簡単に見つかることが多いが,このHWSだけをキーワードに「頚椎」にたどり着くのは難しいと思う。仮に「HWS=頚椎」という答えに近づいたとして,最後に「Halswirbelsaeule=HWS」を確認しようとしたとき困るのは,Halswirbelsaeuleのウムラウトを無視してHalswirbelsauleと表記されている場合があることだ。同じような問題は日本語にもある。「HWS=頸椎」と明記しているサイトがあったとしても,“頚椎”&“HWS”で検索した場合には引っかかってこない。
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# by charttranslator | 2005-03-21 00:44 | カルテ解読のヒント | Comments(0)

ネット検索の限界

「医学辞書や略語辞典に掲載されていない略語など,グーグル検索すればすぐに見つけられる」と思っている人も多いだろう。しかし,ネット検索ではアルファベット1文字や2文字の略語を検索するのは容易ではない。例えば,レントゲン写真のことをXPと略すことが多いが,これを知らない人が“XP”だけをキーワードに検索すると,そう,ウインドウズXPに関するサイトが山ほどヒットする。カルテの“XP”の周囲に“胸部”“所見”“陰影”などのキーワードがある場合は手がかりになるが,“SOL”“clear”“np”などのキーワードしかないカルテのほうが多い。また,“XP”では人名のイニシャルが引っかかることは少ないかもしれないが,アルファベット2文字の検索ではどうしても関係ない人のイニシャルが多くヒットしてしまう。
あるカルテで「RIに圧痛あり」という記載があった。障害箇所が肩であったため,肩あるいはその付近の解剖学的部位を示す略語であると推測できたが,肩&RIやshoulder&RIで検索すると人名のイニシャルが多く引っかかってしまい,探しようがなかった。結局,rotator interval(腱板疎部)という正解に導いてくれたのはインターネットではなく,整形外科の教科書であった。
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# by charttranslator | 2005-03-18 22:37 | カルテ解読のヒント | Comments(0)

ムンテラとマーゲンチューブ

医療業界にはムンテラという俗語がある。語源はMund Therapieらしい。Mund(口)もTherapie(治療)もドイツ語だが,ドイツ語にMund Therapieという熟語は存在しないと聞いたことがある(未確認)。俗語のスペルにこだわるのは,“ナイター”のスペルにこだわるのと同じだが,Mundの発音がムントであることから,ムンテラの語源を“Munt Therapy”と思っている人もいるようだ。この場合Therapyは英語だし,いったい何のことか分からなくなる。
“ムンテラ”は既に市民権を得て日本中で使用されていると思われるが,その語源と思われるMund Therapieは正しいドイツ語ではないのだから「手術の危険性についてムントテラピーします」と言うのは一般的とは言えない。
そういえば,関西のある地方ではアイスコーヒーが“レーコ”と呼ばれていた(今もだろうか)。おそらく冷コーヒーが語源と思われるが,関西の喫茶店でも「レーコーヒーちょうだい」というと笑われると思う。
ムンテラは出自も怪しいながら,その意味も変遷してきているようだ。もともとは「患者(あえて“様”はつけない)と会話し,患者のつらさをいろいろ聞いてあげることによって治療効果を期待する」ようだったのが,今はインフォームドコンセントとほぼ同義,悪く解釈すれば「言いくるめる」みたいなところがある。しかし,きちんと説明してあげると患者は納得し安心するだろうから,意味は大して変わっていないのかもしれない。

胃の中に入れる管は胃管または胃ゾンデ,英語でgastric tubeまたはstomach tube,ドイツ語でMagensondeまたはMagenkatheterと呼ばれている。ところが,ドイツ語のMagen(胃)と英語のtubeとを勝手にくっつけてマーゲンチューブと呼ぶ人もいる。気をつけないといけないのは,Magensondeのスペルを発音からMagenzondeと勘違いし,M-zondeやMZと表記する場合があることで,こうなると正解にたどりつくのは難しい。日本語の“胃管”も,食道全摘後に胃を細長くして食道の代わりとする再建胃管(reconstructed gastric tube)を指すこともあるので注意が必要だ。

カルテでは語源の怪しい俗語も,独語+英語の造語も略される。そう,ムンテラもマーゲンチューブもMTと略される。胃管を誤って気管に入れると通常は激しい咳嗽反射が起こるので間違いだとわかるが,反射の低下した患者ではわかりにくい。胃管の先端が気管や気管支にある状態で栄養剤を流し込むと危険である。もともと胃潰瘍で胃壁の薄くなった患者では胃管の先が胃壁を突き破ってしまう危険性もある。やはり,たかが胃管といわず「MTの危険性についてMTする」べきである。
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# by charttranslator | 2005-03-15 15:43 | 俗語 | Comments(1)

先入観が邪魔をする

ある救急搬送された患者のカルテでは,最初のページの冒頭近くにITIと書いてあった。何かの症状か徴候のことかと検索したが分からなかった。あちこち探しているうちに,ITIではなく1T1,少し丁寧に書くと1-T-1,もっと丁寧に書くとE1VTM1であることを突き止めた。グラスゴーコーマスケールの評価結果だったのである。意識のない患者が病院に到着すれば,医師はただちに意識レベルをチェックし,すぐに次の処置に移らなければならない。そのとき,カルテに「グラスゴー」だの「GCS」など記入する時間も惜しく,ハイフンすら省略する。評価の結果のみを記入すれば充分なのである。

見たことのない3文字の略語で真ん中にTがあればその両側にある縦棒はIだと思いこんでしまう。GCSの評価には0(ゼロ)はないのでO(オー)と間違う心配はないが,肉筆のカルテではIと1,O(オー)と0(ゼロ)との読み間違いに気をつける必要がある。
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# by charttranslator | 2005-03-14 22:47 | 読み違え | Comments(0)

アブレたabbreviations

カルテ翻訳という仕事がある。カルテのコピーを渡され,そのなかの英語やドイツ語を日本語に訳して記入していく仕事である。それらが何のために使用されるのか知らされてはいないが,訴訟関連であることは間違いない。電子カルテというものが普及しつつあるが,電子カルテをプリントアウトしたものなどまだ見たこともない。すべては医師,看護師,理学療法士などの肉筆である。そして略語が多用される。ほとんどの略語は市販の医学辞書に掲載されているが,なかにはネット検索してもなかなか正体がわからないものもある。このブログでは,市販の医学辞書,略語辞典には載っていないような医学略語について書いていく。
当然のことながら私には守秘義務があり,カルテに記載されている個人が特定されるような内容には触れない。
尚,「PTCAって何の略語ですか?」などと,そこら辺の医学辞書やネット検索で答えが簡単に見つかるような質問はご遠慮いただきたい。
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# by charttranslator | 2005-03-14 18:12 | カルテ解読のヒント | Comments(2)